ビゼー作オペラ「カルメン」の、ストーリーを朗読劇で追い、歌曲を歌やピアノで散りばめたコラボ作品。
舞台は戦国時代の日本に設定。出雲の阿国や淀、大阪城の濠の埋め立て、夏の陣など史実を関連づけ、主人公(カルメン)を阿国の姪(かるめ)に、闘牛を牛相撲に等々置き変え、日本的な創作エピソードも加えて、新しい「カルメン」が誕生。役者とオペラ歌手が二人一役、歌詞はフランス語、訳詞を役者が台詞で語り、名曲をもれなく紹介。コロスが踊りで盛り上げ、ピアノが全てをまとめ、「自由!」が舞台からあふれ出る。
「かるめ」フォトギャラリー
「出雲の阿国異聞-かるめ」に寄せて
かるめの〈もの〉語り
山下 晃彦(演出)
「物語の〈もの〉は、〈もののけ〉の〈もの〉であり、〈ものすごい〉の〈もの〉であり、〈ものぐるい〉の〈もの〉であり、つまりは、目に見えぬが 恐るべき何かの力を表している」と劇作家のふじたあさやさんに教えていただいたことがあります。「かるめ」において、その力とはズバリ、かるめ/カルメンが宿しているたくましい命の力だと思います。スペインの太陽直結のエネルギー。スペインの太陽と土と風の申し子は、迷うことなく絶対的な今を生きる。この物語はかるめ/カルメンの磁場に巻き込まれた人たちの変わりようを描いたものです。
オペラ歌手、ピアニスト、ダンサー、そして台本を持った役者たちによって何倍にも響き合う〈もの〉語りの広がりをお楽しみいただければ幸いです。
〝あったかもしれない〟話
佐々木紀子(脚本・構成)
朗読とオペラのコラボは、物語としてのオペラへの興味から生まれました。ヴェルディの「椿姫」につづく第二作はビゼーの「カルメン」。代表曲がタックルや論争のTV番組で流れるように、カルメンには〝バトル〟のイメージがあります。ならばいっそ舞台は日本の戦国時代にしよう、そして出雲の阿国をモデルにしよう、と思いついて、ようやく物語が動き出しました。実在した人物や史実が登場し、どこまでがホントで、どこからがフィクションか…? 作品を通して〝そんなことがあったかもしれない〟と思っていただけたら幸いです。
◎ブログ「ちょっとドラマな日々」
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〈公演を見て〉オペラ企画の革新
北田鉄男
音楽には昔からフュージョン的要素は多いですが、カルメンの新たな融合歌劇の斬新な脚本に、自衛隊が戦国時代にタイムスリップする映画(「戦国自衛隊」)が瞬間的に頭をよぎりました。大掛かりな衣装にも固執されず、朗読劇と声楽家との歌唱コラボが一対となる演出が、見事にマッチングされていました。
弊社もクラシック室内楽にて若手演奏家を応援しておりますが、オペラの新たな一面を拝見し、捉え方一つで楽しいコラボが出来るとの革新を垣間見て、現代に於いて「あり」だと思いました。
今後も大いに期待しております。
*日本音楽プランニング(株)
〈公演を見て〉双方の良いとこ取り
神田織音
ウォーターフローさんの朗読劇、歌劇「カルメン」の舞台を日本の戦国時代に移した「かるめ」。カルメンやドン・ホセといった主要な役を朗読劇の役者とオペラ歌手との二人で演ずる二人一役。これが双方の良いとこ取りになってとても良かったです。
これまでオペラは何度か鑑賞したことがありましたが、こちらの勉強不足で理解できなかったり、過剰な表現に尻込みしておりました。しかし今回、朗読劇の台詞から主人公の感情がよく理解でき、その上でオペラ歌手の方の歌をお聞きすると、その表現力の素晴らしさに圧倒され、これまで馴染めなかったオペラにグイグイ魅きつけられる自分がおりました。
*講談師
https://kanda-orine.amebaownd.com
〈公演を見て〉何? これ
柏戸比呂子
「何? これ」。それが「椿姫」(朗読×オペラ「椿」2015年12月上演)の第一印象でした。時代劇とオペラが合体。でもミュージカルとは違う。卓抜な発想に驚嘆しました。
第二作「かるめ」の舞台は、大阪城落城前後。武士から舞姫まで雑多な人物のほとばしる感情は、ビゼーのアリアに昇華されます。戦国時代の舞台とスペインの恋のアリアに、違和感はありません。「何? これ」。
大昔、NHKラジオにオペラの時間がありました。曲と曲との間に、粗筋は勿論、作品の背景、人物の説明、その他諸々の解説が入るのです。私にはそれが邪魔で「音楽だけにしてよ」と思ったものでした。けれど、長じてクラシック音楽を楽しむようになったのは、あの余計な解説のお陰だったのかも知れない、と考えるようになりました。
ウォーターフローは、NHKの退屈な「解説」を大幅にエンタメ化し、見事な知的エンターテインメントを生み出したのです。これは、観客の想像力に訴える朗読劇でなくては生まれない世界です。脚本家の努力に敬意を表します。
*脚本家
かるめは今もどこかに
阿国(語り手)藤田 恵子
『かるめ』は戦国時代、大阪城濠の埋め立てに絡め、出雲の阿国が一座を率いて唄い踊る。阿国とかるめは河原乞食と蔑まれながらも、自分らしく生きるために河原で舞います。体の中から溢れ出る血のような熱い思いで「本当の心の自由が欲しい!」と叫びます。自由になるためなら死をもいとわないと…、阿国にはかるめの気持ちが痛いほどわかります。
自由が欲しいと叫ぶのと同時に、普通の暮らしに憧れたかるめ。阿国も若い時そうでした。溢れる思いはいつから己の中に仕舞い込めるようになったのだろう。だから、あの時かるめを止めきれなかった。かるめが自由になるために走るだろうことは判っていました。
そんな女の一人や二人、いまでもどこかにいると思います。
どなたにも楽しめる選曲
川島 慶子(オペラ演出)
「カルメン」は、世界中の歌劇場で上演されている超人気作品です。私自身も大好きな作品で、朗読劇「かるめ」のための選曲では、限られた上演時間の中でお客様に聴いていただきたい曲がたくさんあり、頭を悩ませました。そしてピアニスト小滝さんのお力を借りて、初めて聴かれる方にも、オペラ好きな方にも、楽しんでいただける選曲となったと信じております。
前回作品の朗読劇「椿」に続き、再びこの「朗読×オペラ」企画に参加させていただき、大変嬉しく思っております。この出会いに心より感謝いたします。
〈公演を見て〉古典が最先端に
佐藤孔亮
朗読劇とオペラがコラボした「かるめ」。舞台上で19世紀のスペインと日本の戦国時代が重なり、カルメンと出雲の阿国が重なる。闘牛が牛相撲になったり、大坂城の淀殿が出てきたり、あっと思わせる演出に度肝を抜かれてしまった。歌舞伎舞踊の創始者といわれる阿国が恋の歌をオペラで歌うという発想がすごい。いっそ長唄でバレエは踊れないかとか、雅楽とギリシャ古典劇とか、いろんな組み合わせを考えてしまった。
古典は組み合わせ次第で最先端になれる、と確信した舞台である。
*江戸文化研究家
〈公演を見て〉荒唐無稽の世界がぐいぐいと
吉村文成
あのカルメン、スペインの歌姫、いや、恋多きタバコ工場の女工が、戦国時代の日本にやってくる。そして、歌舞伎の祖・出雲の阿国の姪「かるめ」として「カルタの歌」を歌い、阿国一座を支える……鉄砲が伝来した大航海時代とはいえ、いくらなんでも荒唐無稽な話だ。だが、その荒唐無稽の世界が、ぐいぐいと観客を引き込む。
歌は、カルメンに留まらない。「花の歌」をホセ(長谷段之助)が、「闘牛士の歌」を隠岐の島の闘牛をバックに、エスカミーリョ(江塚峰郎)が歌う。本物のオペラ歌手の歌を聴くのは、私には贅沢とすら思えた。
最後、カルメン(かるめ)が、嫉妬に狂ったホセ(長谷)に刺殺される終盤に向けての盛り上がり……固唾をのみ、酔ったような時間だった。一度だけの上演ではもったいない。再演を、心から望みます。
*元龍谷大国際文化学部教授/元朝日新聞記者